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趣 味・歴史

小説:江の島西浦写真館

2018年8月16日  Sejimo
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 ジュンク堂でこの本を手にとってみたら面白かった「ビブリオ古書店の事件手帳」シリーズの作者だったので早速買ってみた。
 舞台は江の島で大正時代から続く写真館。主人公は藤沢に住むOLの繭と写真館の館主。といっても館主は少し前に亡くなっているだが、登場する人物達は失意の時代に館主に救われた経験をもつ。そのいきさつが未渡しの写真の受け渡しを通して過去のほろ苦くも暖かな物語である。
 繭は自動車部品メーカーに勤めるOL。学生時代は写真家を目指していたが、ある事件を契機として夢を諦めた。祖母の写真館館主が亡くなり、遺品の整理のために度々江の島を訪れる。片付けの中で注文主が受け取りにこない多くの未渡しの写真を見つけて注文主に返そうと動き出す。
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 最初に写真を受け取りに来た青年秋孝に渡す4枚の写真は100年間の違う年代に撮られたにも係わらず同一人物が写っているという謎めいた場面があり、後半にその謎が解けるまで引っ張られてしまった。
 次に大学時代に共に写真家を目指した先輩の名前のある注文袋を見つけて中の写真をみると幼馴染で後に芸能人として有名になった琉衣の写真があった。彼とは繭の撮った写真を限定公開のSNSにアップしたところ仲間の誰かが外部にリークしたためマスコミに騒がれてしまう。琉衣は非常に怒り繭と絶交を宣言し芸能界を引退する。仲間の裏切りと自分の思慮の無さに失望して写真とは一切縁をきってしまった。先輩と会ってリークした犯人と何故琉衣の写真を持っているのかを聞いてみると2人共、あの事件以降に写真館で働いていたことがあるという。突然職を失い困り果てた2人が江の島に来た時に館主に救われそうだ。
 そして土産物店主がキャビネット内の銀塊を無断借用していた件も館主は承知していた話へと続く。最後に4枚の写真の謎が明かされ物語は終わりとなる。
 誰しもが若い頃に思慮の未熟さ、自信過剰や運の悪さ等により後悔と失意を経験することがあろうが、館主は話を聞かずとも態度から心境を見抜き働き口を世話したり、写真館に住み込みで働かせたりする懐の大きさを持つ人だった。登場人物達は江の島で傷を癒してまた社会に新たな心境で戻っていくという物語である。
 作者は小学校から藤沢市に在住なので藤沢、鎌倉の地理や歴史に詳しい。この本では江の島で長年続く写真館、ビブリア古書堂の事件手帖では北鎌倉の古書店という古くからの名所にある建物にレトロな雰囲気を想像させるのも魅力の一つである。
出版本の情報リンク
markenopo 2018年08月16日