江の島の植物・落葉高木《ヤマザクラ(山桜)》

2015年3月11日  (写真&文:坪倉 兌雄)               
150311-yamazkura-1江の島の海辺に咲くヤマザクラ 

ヤマザクラ(山桜) Prunus jamasakura  バラ科サクラ属

ヤマザクラは本州、四国、九州の山地に自生する、日本の代表的なサクラで、清楚で美しい花は古くから多くの詩歌に詠まれています。江の島では海側の日当たりのよい場所で見られ、高さは約10㍍で樹皮は暗褐色、若芽(新葉)の色は赤、茶色、黄緑色など木によって違いがあります。葉は卵状長楕円形または卵形で長さは8~12㌢、ふちには細い鋸歯があり、裏面は白緑色で両面とも無毛、葉柄の上部に2個の腺点があります。
開花は3月下旬から4月上旬で、直径2.5~3.5㌢の白色または淡紅白色の花を散房状に3~5個開きます。花弁は円形~広楕円形で5個あり、先端がへこみ、雄しべは33~40個あります。萼片は細長い三角形で長さは約2.5㍉。萼筒は筒状の釣鐘形で長さ6~7㍉で無毛。果実は球形で5~6月に紫色に熟します。

 150311-yamazakura-2新葉と白い花の対比が美しい  150311-yamazakura-3裏参道海側に咲くヤマザクラ
 150311-yamazakura-4西側海辺に咲くヤマザクラ  150311-yamazakura-5花弁は5個で先端がへこむ  150311-yamazakura-6オオシマザクラの新葉は緑色

 ヤマザクラとほぼ同時期にオオシマザクラも開花しますが、オオシマザクラの花はやや大形で、同時に伸びる新葉は緑色であることから前者と区別できます。ヤマザクラは庭木や街路樹、盆栽などに用いられていますが、その材は緻密で堅く均質なことから、高級家具材や器具材として利用されています。樹皮はその特有の美しさをいかした樺(桜)細工などに用いられ、また樹皮にはフラボノイド系の薬効成分があり、生薬では桜皮(オウヒ)として鎮咳や去痰などに用いられています。

ヤマザクラは古くから人々に親しまれ、万葉集には40首以上詠まれていますが、ここに2首を紹介します。
   あしひきの 山桜花 日並べて かく咲きたらば いた恋ひめやも  巻第8 1425、 山部赤人
   見渡せば 春日の野辺に 霧立ち 咲きにほへるは 桜花かも  巻第10 1872、 詠人未詳