江の島の植物・落葉低木 ≪テリハノイバラ(照葉野薔薇)≫

2016年7月13日  (写真&文:坪倉 兌雄)
 terihanoibara 1テリハノイバラの萼筒は楕円形で無毛、萼片は卵形で5個Rosa wichuraiana
バラ科バラ属 

テリハノイバラはツル性の落葉低木で、本州、四国、九州、沖縄などに分布し、江の島では日当たりのよい参道わきや海辺の岩場などで見ることができます。茎は地をはって伸び枝分かれします。枝は無毛ですがまばらにカギ状の刺があります。葉の長さがは約8㌢、奇数羽状複葉で互生し、小葉は2~4対、楕円形または広倒卵形でふちに鋸歯があり、長さは1~2㌢、表面は光沢のある緑色で裏面は淡緑色、質はかたく両面とも無毛です。葉軸には腺毛があり、葉柄の基部につく托葉は淡緑色で、下部は葉柄に合着して、ふちに腺状の鋸歯があります。6~7月、芳香のある白い花を枝先に数個つけ、花弁は倒卵形で5個、平開して直径3~3.5㌢になり、雄しべが多数つきます。花柱には白い毛があり、合着して花床からつきでます。萼片は卵形で5個、反り返ります。果実はバラ状果(偽果)で、直径6~8㍉の卵球形、秋には赤く熟します。

 
terihanoibara 2葉に艶があり芳香のある花をつける(6~7月)  terihanoibara 3果実は直径6~8㍉の卵球形で赤く熟す 
 terihanoibara 4聖天島にて  terihanoibara 5ノイバラの葉(表面に光沢がない)   terihanoibara 6ノイバラの花(5~6月) 

名前は野の生え、葉に光沢(照葉)がある茨(刺のある小木)で「照葉野茨」とされています。江の島には仲間のノイバラ(野茨)も自生しており、両者の見分け方は葉の光沢が一番のポイント、花や果実の大きさや托葉の形などでも区別することができます。テリハノイバラやノイバラはバラの接ぎ木(台木)として、また庭木などにもよく用いられています。 万葉集に詠われる「荊(うらま)」はノイバラであるとされていますが、その一首をここに紹介します。
     道の辺の 荊(うまら)の末(うれ)に 這(は)ほ豆の からまる君を 離(はか)れか行かむ
                       (巻20 4352 丈部鳥(はせつかべのとり))

愛する妻を残して遠い地方へ派遣され、いつ戻れるかわからない切ない心情を詠んだ歌です。